いなたいショーケース

反射的に投げ込んでいく実験です

【〈ハタラク〉をデザインする】山崎亮さんと大南信也さんの対談で思ったこと

 

先週火曜日にコミュニティデザイナーの山崎亮さんによる対談イベントに行ってきました。 タイトルは「〈ハタラク〉をデザインする」というもので、毎回異なったゲストと一緒に新しい働き方を考えよう、というイベントです。

山崎亮 〈ハタラク〉をデザインする - Asahi Shimbun Digital[and]

過去の対談の記事もあります

 

 

ぼくが行ったのは第6回。ゲストはNPO法人グリーンバレーの理事長である大南信也さんでした。 大南さんは徳島県神山町で90年代初めから住民主導のまちづくりをされてきた方で、日本で早くから地方の活性化に努められていました。

これまでの5回はゲストの働き方に着目していたようなのですが、山崎さんも大南さんもまちづくりをお仕事とされていることもあり、今回の対談はより「地方でコミュニティにアプローチする」ということにフォーカスしたものとなったようです。

会は15分ほど大南さんがお仕事の内容を紹介された後、参加者で5〜6人のグループを作り、話し合って質問を出すという流れになりました。その中で感銘を受けた大南さんの言葉をメモします。

「やりたい人がやればいい」

「地元の方をどうやってまちづくりの活動に参加させればいいか」という趣旨の質問の答え。 振り切っているように思える言葉ですが、確かに全ての人に自分たちの活動を賛同してもらえるなんてのは現実的に難しい。どうしても地域自治体はお役所的に数字で結果を求めてしまうかもしれませんが、どれだけ参加人数が少なくても、その中で現れた成果の質を重視したいというのが大南さんの考えだそうです。

また、神山町で活動する他のNPO団体の連携についても、「それぞれやりやすいこと、やりたいことがあるのでそのままにしておく」とのこと。あまり活動の関連が強くない団体とのネットワークづくりを優先するのではなく、関わる必要が出てきたときに繋がればいい。

ネットワークづくりに奔走するとそれだけで疲れてしまうという意見には山崎さんも頷いていました。

 

マイナスからプラスの側面を見出す

大南さんの思考法で特徴的なのが「マイナスな結果をプラスに考える」という点。質問の回答でも「失敗を失敗と思わない」「うまくいかなかったことから何かを探す」という言葉をよく使われていました。

大南さんらが神山町アーティスト・イン・レジデンス※1の活動を始めた頃は、住民からは冷たい目で見られることもあったようです。参加人数もなかなか増えない現状があったようですが、しかしそこで逆に、「自分たちの活動を邪魔されることが少ない」というある意味ポジティブな面を捉えたことが現在の神山の活性化に繋がったのかもしれません。無我夢中で活動を続けた結果なのでしょう。

大南さんの活動が紹介される際には「創造的過疎」というキーワードが使われることがあるようですが、これは「人口が少ない」という社会的問題として挙げられるような面を「逆に考えれば、過疎は人と繋がりやすい状況なんだ」という発想に転換できる大南さんの思考法自体も表しているのでしょう。この思考法は、ある事象の中からプラスとマイナスを見出すというよりも、弱点を強みに変える、と言ったほうが感覚的に近いと思います。地方コミュニティの限られたリソースを最大限活かすには重要ですね。

 

無理をせず、長い目で、相手の考えを尊重しながら

トーク中には「頼まれてできることをやる」「相手(住民)の考えを尊重する」と一見すると受動的な姿勢を感じる言葉もチラホラ出ることがあったのですが、大南さんの活動で特徴的な点としてはもう一つ、「住民主導のまちづくり」ということが挙げられます。そこには長い目で、地域住民自らで動き出すことを待つ独自のスタンスが垣間見えます。

「住民の意思を尊重する」といえばとてもクリーンな印象で、コミュニティ・デザインの観点ではセオリーであり、理想的でしょう。しかし、周りを巻き込むために広報・PRに力を入れるよりも、いつ参加してもらえるかわからない住民の動向を待つ方がはるかに辛いのではないか…自分がその状況に立てば成果が簡単に出ない状況に苛立ってしまうのではないか、と思うのです。

腑に落ちないぼくは、山崎さんと大南さんのトーク終了後の懇親会で、大南さんに「何がまちづくりを長年続ける原動力になるのですか」という質問を投げかけました。すると、大南さんは笑顔でこんな言葉を口にしました。

「成果を求めるのではなく、『自分たちは良い活動をやっている』という意識を持つことで5年、10年と続けられる。そうすれば、だんだんと成果が出始めるから、それまでやり続けるんだよ」

目を輝かせながら仰られた(自分にはそう思えました笑)その言葉にハッとしてしまいました。

つまり、物事を長期的に見ながら住民の活動参加を「待つ」姿勢は自信や信念の現れ。住民との日頃からの交流や要望のリサーチ、そして頼まれたことをやり遂げるという小さな積み重ねが、今の大南さんの働き方に繋がっているんだなぁと思いました。


山崎さんも大南さんも初めてお会いしましたが、とてもエネルギッシュで素敵な方たちでした。 まちづくりをしていても、その土地の状況や活動スパンを考えるとなかなか大南さんのような境地に達することは難しいかもしれませんが、人との関わりにおいては、非常に面白いエッセンスの詰まった話だったように思います。

<ハタラク>をデザインすることについて、社会人になるまでもっと考えてみようと思います。  

※1各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在しながらの作品制作を行わせる事業(ex:イン神山)